GREATEST TRICKS
+ 伏線/手がかり |
フェア派 |
VS |
アンフェア派 |
A
カイザー・ソゼは誰だ?
- 面通し5人組の中で、ヴァーバルのみ欠落している事がある
- 金のライター、金の腕時計
- ヴァーバルとソゼの名前
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- ミステリー小説が原作ではなく、映画のオリジナル脚本
- 劇中では警察側の誰も、ソゼ=ヴァーバルとは気付いていない
- 劇中で「自分がカイザー・ソゼだ」と名乗った人間は、誰もいない
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- 本作はミステリー映画
- 真犯人のヴァーバルは「信頼のできない語り手」(ミステリー用語 ※)である
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B1
ヴァーバルの回想は嘘
- ヴァーバルは詐欺師
- レイビンの部屋の中での、ヴァーバルの視線
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- ヴァーバルが自ら率先して回想しているのではなく、警察側に迫られてのこと
- 回想シーンの全てが嘘ではない
(登場人物の固有名詞等に嘘はあるが、本当にあった出来事も含まれる)
- 現在と回想シーンを繰り返すのは、映画ならではの演出
- 途中から、クイヤンの想像による回想シーンに変わっている
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- 叙述トリックが使われている
→ノックスの十戒・第8項に違反
→ヴァン・ダインの二十則・第2項、15項に違反
- 回想やフラッシュバックの映像に、嘘の内容を含めてはいけない
- ズルイ、インチキ
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B2
ヴァーバルの左半身付随は嘘
- キートンのセリフ「脚の感覚がないよ、カイザー」
- ヴァーバルが左手でクイヤンの腕を払いのける
- カイザー・ソゼは左利き
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- ここは叙述トリックには該当しない
- 警察側の誰も、この嘘を見破っていない
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(ここに対する指摘は見受けられない) |
※ ミステリー小説の巨匠:アガサ・クリスティーは、ありとあらゆる犯人パターンを
作品の中で試しているが、その中の一つ『アクロイド殺し』/『アクロイド殺人事件』では、
「信頼のできない語り手」のトリックを使っている。この作品の出版後、フェア/アンフェア論争が起きている。
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ノックスの十戒
〜 ロナルド・ノックス(1928年)〜
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No. | ルール | 『ユージュアル・サスペクツ』における検証 |
01. | 犯人は物語の当初に登場していなければならない | ○ | ヴァーバルは冒頭の面通しから登場している |
02. | 探偵方法に超自然能力を用いてはならない | ○ | 使っていない |
03. | 犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない | − | 密室トリックではないので該当せず |
04. | 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない | ○ | 使っていない |
05. | 中国人を登場させてはならない (ここでいう中国人とは、超常現象を駆使する人物という意味) | △ | 強いていえば、東洋人名の「コバヤシ」弁護士が登場するのが近いニュアンス? |
06. | 探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない | ○ | クイヤン、ジャック・ベアは使っていない |
07. | 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない | △ | クイヤンは犯人ではない では、ジャック・ベアは犯人(カイザー・ソゼ)ではないと言い切れるか? |
08. | 探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない | × | 手がかりの一部である回想シーンに嘘が含まれる≒提示していない手がかりがある これが叙述トリックにあたる |
09. | “ワトスン役”は自分の判断を全て読者に知らせねばならない (ワトスン役とはシャーロック・ホームズの例から、探偵の助手を指す) | ○ | ワトスン役に相当するのは、クイヤンの場合はレイビン刑事、ジャック・ベアの場合は似顔絵描きの女性だが、隠し事はしていないし、協力的である |
10. | 双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない | △ | 双子も二重人格もいないが、障がい者/健常者を使い分けるヴァーバルが該当するか? |
ヴァン・ダインの二十則
〜 S・S・ヴァン・ダイン(1936年)〜
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No. | ルール | 『ユージュアル・サスペクツ』における検証 |
01. | 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。 | △ | 前述の通り、明白でないかもしれないが示されている |
02. | 作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。 | × | 映画の大半を占める回想シーンの語り手(小説でいえば作者)であるヴァーバルが、嘘をついている これが叙述トリックにあたる |
03. | 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。
ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。 | ○ | キートンとイーディ・フィネランのロマンスがあるが、フィネランはコバヤシやアルトゥーロ・マルケスとも関係があるキーパーソンである |
04. | 探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。
これは恥知らずのペテンである。 | ○ | クイヤン、ジャック・ベアを含み、警察側の誰も、劇中では犯人に急変していない |
05. | 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。 | ○ | 偶然はないし、ヴァーバルは自供もしていない 「カイザー・ソゼ」という名前は暗合にあたるかも? |
06. | 探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。 | × | クイヤン、ジャック・ベアが捜査しても、警察側はヴァーバル=ソゼという結論には達していない
事件は解決していない(ソゼは逃げ去っている) |
07. | 長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。 | ○ | サンペドロ港の船爆破事件では、27人が死亡している |
08. | 占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。 | ○ | 使われていない |
09. | 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。 | × | 探偵役はクイヤン、ジャック・ベアと二人いる |
10. | 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。 | ○ | ヴァーバルは冒頭の面通しから登場している |
11. | 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。 | ○ | ヴァーバルは端役ではない
ただし、面通しでは端に立っている |
12. | いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。 | ○ | 真の犯人:ヴァーバル(=ソゼ)、共犯者:コバヤシ |
13. | 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。 | × | ヴァーバルはサンペドロ港の事件現場で逮捕されたにも関わらず、政治的圧力により翌日保釈されている カイザー・ソゼは非合法組織のボス、伝説のギャングという回想や噂があるが、真相は定かではない |
14. | 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。 | ○ | 非科学的なトリックはない |
15. | 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。 | × | 嘘の回想(叙述トリック)がある以上、スポーツマンシップも誠実さもない |
16. | 余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである。 | ○ | そのようなシーンはない |
17. | プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。 | × | 『ユージュアル・サスペクツ』(=常連の容疑者たち)というタイトルからして既に違反 |
18. | 事件の結末を事故死や自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。 | ○ | そのような結末ではない |
19. | 犯罪の動機は個人的なものが良い。国際的な陰謀や政治的な動機はスパイ小説に属する。 | ○ | そのような動機ではない |
20. | 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。
- 犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
- インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
- 指紋の偽造トリック
- 替え玉によるアリバイ工作
- 番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
- 双子の替え玉トリック
- 皮下注射や即死する毒薬の使用
- 警官が踏み込んだ後での密室殺人
- 言葉の連想テストで犯人を指摘すること
- 土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法
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△ | 言葉の連想があるが、劇中ではそれにより犯人が特定されていない
verbal:英語で「おしゃべり」
soze:トルコ語で「おしゃべり」 |